茂上工芸
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●木材早わかり


 針葉樹、広葉樹を問わず、その木の持ち味や特徴を生かして製作をしているが、特に江戸指物に好まれる木がある。 広葉樹の「桑」「黄檗(キハダ)」「欅(ケヤキ)」「桐」「栗」「タモ」がそれである。

 「桑」は江戸指物では最も格が高い。特に御蔵島、三宅島産を最上とする。硬く粘りがあり、細工の際に木崩れしにくいことから、工芸素材として好まれている。独特の淡い黄褐色は歳月を経るにつれ黒褐色の美しい桑色となる。良木からは玉杢 (たまもく)、銀杢(ぎんもく: Silver grain)と称される美しい木目を得ることができる。

 「黄檗(キハダ)」は江戸指物では最も良く用いられている。光沢のある淡黄色で、木目がはっきりしていながら上品な美しさを醸し出す材である。軽く、扱いやすく、狂いが少ない。樹皮は、健胃や火傷の薬、染色材などに用いられている。

 「欅(ケヤキ)」は堅さ、木目の大胆さが魅力の材であり、建築材から細工材までその用途は幅広い。玉杢、如鱗杢(じょりんもく)、鶉杢(うずらもく)など、荒波を思わせるような木目を見せる。

 「桐」は軽く柔らかいうえ、耐久性に優れているので、古くから箪笥や収納箱、耐火を考えた金庫などに用いられてきた。板目より柾目の方が伸縮が少ないことから、家具には柾目が多く使われる。一方、玉杢を嗜好する琴には板目が好まれている。

 「栗」は家の土台や線路の枕木に最も適していると言われている。水にも虫にも強い材である。「欅(ケヤキ)」のような派手さはないが野性味があり、摺りうるしで仕上げると木目が浮かび上がってくる。その素朴さは縄文期を思わせ、茶道では炉縁に使われている。

「タモ」は材そのものの色合いの良さから、建築材や細工物によく用いられる。淡緑色で光沢があり、木目も鮮明である。摺り漆で仕上げると、伸びやかで雄大な風合いを醸し出す。 その他、「栃」「柿」「楓」「献保梨/玄圃梨(ケンポナシ)」「栴檀(センダン)」などが用いられている。

針葉樹では「一位(イチイ)」「杉」「桧(ヒノキ)」「松」が用いられる。

 「一位(イチイ)」は数は多くないが今も指物に使われている。ちなみに一位の由来は、仁徳天皇がこの木で作らせた笏(しゃく)で正一位を授けたことからくると言われている。今でも笏は「一位」で作られている。

 「杉」は今日では高価になっている。特に屋久杉は入手困難である。

 「桧(ヒノキ)」は法隆寺の建材としても名高い。香り高くつややかな木肌を持つが指物では木地のまま用いることは少ない。漆塗り指物の下木地材として用いられる。

 「松」は黒松と赤松に分けられる。指物では黒松の中でも適度に脂分を含んだ脂松を用い、拭き漆で仕上げる。丁寧に拭くことを繰り返しながら使い込んでいくと、美しい飴色となる。

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木材図鑑リンク 木材図鑑:「府中家具工業協同組合」製作